膀胱癌の診断と治療
小畠病院 泌尿器科担当
矢野敏史 医師
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膀胱癌ってどんな病気 |
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皆さんこんにちは。これから膀胱癌についてお話をします。膀胱癌はその名の通り尿を貯める膀胱という臓器に出来る癌(悪性腫瘍)のことです。皆さんは癌と聞くとどんな印象を持たれるでしょうか。おそらく怖い病気、命に関わるような病気という印象ではないでしょうか。
実際に統計を取って調べたところ膀胱癌を発症する人は人口10万人あたりでみると毎年7.6人と言われ、膀胱癌で命を落とされる方も毎年2.2人と決して少なくありません。福山市の人口が約46万人ですから、福山市でも毎年35人が膀胱癌になり、10人が亡くなっている計算になります。
一方で早期に発見され、適切な治療を受けた場合の治療成績は非常に良いことも分かっています。そのため膀胱癌においても、他の癌と同じように早期の発見と早期の治療開始が最も重要になります。
では早期発見のためにはどういった事に気をつければ良いのでしょうか。膀胱癌になりやすいタイプの人というのはこれまでにいくつか分かっています。まず男性の発症率は女性の4倍程度とされています。またある種の化学染料やゴム製品を取り扱っている人、免疫抑制剤や放射線による治療を受けたことのある人では危険性が高いとされています。
なかでも一番重要なのが喫煙の有無で、喫煙者は非喫煙者と比較して2-4倍の発症率とされています。喫煙者の男性は非喫煙者の女性の16倍も膀胱癌になりやすいということですね。そのためこれらの危険要素を持つ方は特に注意していただく必要があります。これを読んだ喫煙者の方は悲観的な気分になるかもしれませんが、一方で朗報もあります。なんと1-4年の禁煙で膀胱癌の危険が30%も減少するとのデータの報告があるのです。他にも禁煙による膀胱癌の危険軽減を証明するデータは多くあるので、今からでも禁煙すれば間に合う可能性は十分にあります。
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膀胱癌の初期症状と検査について |
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膀胱癌の初期症状と検査についてお話しします。膀胱癌も他の癌と同様に早期発見、早期治療が最も重要です。それは膀胱癌の進行具合によって治療の方針や治療後の生活が大きく違うためです。
早期の癌であれば、大部分は内視鏡の手術や膀胱内に抗腫瘍薬を注入することで治療を行うことができます。しかしある程度進行してしまうとお腹を大きく切って膀胱を摘出する手術が必要になりますし、放射線や抗がん剤による治療の併用が必要になる場合もあります。膀胱という尿をためる袋が体からなくなってしまうため、新しく尿の通り道を確保する手術も必要になり手術後の生活にも様々な制限をもたらすことになります。さらに進行してしまうともはや完全に治癒することは困難となり、抗がん剤などで進行を遅らせる治療しか出来なくなります。少し怖い話をしましたが、いかに早期の発見が重要かがお分かり頂けるかと思います。
膀胱癌の初期症状としては血尿と排尿に関する症状(頻尿・排尿時痛・残尿感など)があります。ただ実際に目で見て分かる血尿はある程度癌が進行してから起こることが多く、見た目が正常でも健診などで尿潜血を指摘された場合は注意が必要です。また年齢を重ねるにつれて排尿に関する症状は自然と多くなるため、歳だからと思っていて受診が遅れてしまうこともしばしばあります。これらの異常があれば、一度泌尿器科でご相談頂くことをお勧めします。
泌尿器科で最初にさせて頂く検査は尿の顕微鏡検査や超音波の検査です。これらの検査で異常が認められた場合は、膀胱のカメラの検査が必要になります。膀胱癌は膀胱の内側を覆う粘膜から発生するので、尿道から膀胱内にカメラを挿入し内側から粘膜を観察することで癌の有無を調べることができます。また尿中には膀胱粘膜の細胞が混ざっていますが、これらの細胞の中に癌細胞が混ざっていないかを調べる尿細胞診検査も診断に有用な検査になります。他に造影剤を用いた尿路造影検査やCT検査・MRI検査等の画像検査が必要になることもあります。
注意が必要なのは膀胱癌には様々な形態があるため、検査の種類によって診断に得意・不得意があることです。残念ながら一つの検査で全ての診断を行うことは困難ですので、これらの検査を必要に応じて組み合わせて検査することが正確に診断するために重要になります。
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膀胱癌の診断について |
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膀胱癌の診断についてお話ししましょう。
膀胱癌の診断には膀胱癌そのものの診断と膀胱癌の状態の診断の2つがあります。膀胱癌そのものの診断が重要なことは議論するまでもありません。前にお話ししたように、膀胱癌そのものの診断は超音波検査・膀胱鏡検査・尿細胞診検査などの検査で行われます。膀胱に癌があるかどうかはこれらの検査で大部分が判明しますが、いざ治療を行うにあたってはこれだけでは不十分です。膀胱癌は進行の程度や悪性度などによって様々なタイプに分類され、この分類が治療方針の選択に不可欠だからです。それでは膀胱癌の状態の診断、つまり進行度や悪性度を診断するためにはどのような検査が必要になるのでしょうか。その前に膀胱癌の状態を決定する要素について少し詳しく説明させていただきます。
膀胱癌は膀胱の内腔表面に張った粘膜から発生し、進行するにつれて表面の粘膜から膀胱の壁を外側に向かって侵入していきます(壁内浸潤)。さらに進行すると膀胱の壁を突き抜けて膀胱の外側まで癌組織が広がっていきます(壁外浸潤)。また膀胱の血管やリンパ管に癌細胞が入り込むと血液やリンパ液の流れに乗って全身に広がり、他の臓器やリンパ節でも癌が増殖を始めます(転移)。これらの癌の進行の程度を分類したものを癌の進行度と呼びます。一方で悪性度とは癌の進行度とは関係なく、癌細胞一つ一つの性質の悪さを分類したものです。比較的大人しそうな癌細胞もあれば非常に凶暴な癌細胞もあるということです。性質が悪い細胞が多ければ、癌の進行速度が速くなり、また再発の危険が高くなります。あまり進行していない癌であっても、悪性度が高ければ油断できないという事になります。膀胱癌は進行度や悪性度によって治療方法や治療の効果が異なるため、これらを正確に把握することが治療を行うに当たって非常に重要になるのです。
壁外浸潤や転移の有無はCTやMRIなどの画像検査で診断を行いますが、壁内浸潤の程度や悪性度は画像検査では十分に調べることができません。これらを調べるためには膀胱の組織を採取し、顕微鏡で観察する病理検査が必要になります。組織の採取は内視鏡手術で行いますが、この点については治療を兼ねて行うため、次回で詳しく説明させていただきましょう。
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膀胱癌の治療について (内視鏡手術) |
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今回からは膀胱癌の治療についてお話させて頂きます。膀胱癌の治療方法は外科的(手術)治療・放射線治療・抗がん剤治療など多岐に渡ります。また外科的治療には大きく分けて内視鏡手術と解放手術の2種類の方法があります。今回は外科的治療のうちの内視鏡手術についてお話ししましょう。
内視鏡手術は尿道から手術用の内視鏡(カメラ)を挿入し、内視鏡の先についたループ状の電気メスで癌組織を膀胱の内側から削り取る手術です。前回お話しした通り、膀胱癌は膀胱の内側を覆う粘膜から発生し徐々に深い所に進行しますので、内側から削り取る内視鏡手術は理屈に合った方法といえます。
内視鏡手術の最大の利点は膀胱を摘出しなくて済むという事です。そのため患者さんの体の負担が少なくて済み、またこれまで通りに尿を貯め排尿することが出来るので術後の生活にストレスがほとんどありません。患者さんにとっては非常に良い方法と言えます。一方で欠点もいくつかあります。まず癌が進行して膀胱の壁の深いところまで進展していた場合、内視鏡手術では削りきれないという事です。無理に癌を全て削ろうとすると膀胱の壁を貫通して穴が開いてしまいます。もう一点は内視鏡で見えないような小さな癌は切除できずに残ってしまうことです。一部でも癌を残してしまうとそこから再発・進行してしまいますが、内視鏡手術を行った場合癌が再発する可能性は30-50%もあると報告されています。つまり内視鏡手術は早期でかつ目に見えるような癌に対しては非常によい治療だけれども、進行癌や内視鏡で見えないような癌には治療として不十分と言う事が出来ます。
しかしここで問題になるのが、現在の医学では進行度や癌が残されている可能性については削った組織を確認してみなければ分からないという事です。そのため実際の治療においては、膀胱癌が発見された場合まず内視鏡手術で癌を削り取り、その削った組織を詳しく調べるということが必須になります。調べた結果として早期の癌であれば治療はいったん終了することが出来ますし、癌が残存している可能性があると判断されれば追加の検査や治療が必要となります。つまり内視鏡手術は治療だけでなく検査という側面も兼ねて行われるという事ですね。次は開放手術についてお話させて頂きます。
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膀胱癌の治療について (開放手術) |
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今回は膀胱癌の開放手術についてお話します。開放手術というのはお腹を切って行う手術の事です。お臍の辺りから下腹部を15cmほど縦に切開し、膀胱を隣にある前立腺と一緒に丸ごと摘出します。
前回お話しした内視鏡手術に比べると飛躍的に身体的な負担は大きくなります。また膀胱を摘出することで非常に大きな問題点が出てきます。膀胱を摘出してしまうと腎臓で作られた尿が体外に出ていく通り道が途切れてしまい、また尿を貯める部分が体内になくなってしまう事です。そのため尿の通り道を確保し、かつ尿を貯める方法を新しく考える必要が出てきますが、その方法として現在2種類の方法があります。
一つはお腹に穴をあけて、途切れた尿の通り道をお腹に開口させてあげる方法です(これを尿ストマといいます)。術後は集尿用の袋をお腹に張り付けてストマから流出する尿を回収して生活する必要があります。
もう一つは小腸を一部切除して袋状になるように縫い合わせ、摘出した膀胱の代わりに体内に埋め込む方法です(新膀胱といいます)。この場合は手術前と同様に体内で尿を貯め、いっぱいになると尿道から排尿することが出来ます。
普通に考えれば後者の方法のほうがいいように感じますが、問題点もいくつかあります。一つは本来なら切除しなくてもいい腸を使うため手術の負担が大きくなること、もう一つは腎機能障害や感染症などの術後合併症が増えることです。そのため実際は患者さんそれぞれの年齢や健康状態、さらに社会的背景などを考慮したうえで、より術後の生活を過ごしやすい方法を相談することになります。
これだけの負担を患者さんに強いてまで開放手術を行う理由は、とにかく癌を完全に治せる可能性が高いからです。膀胱癌の患者さんの生存率は癌の進行度が大きく影響します。内視鏡手術で治癒が期待できるような早期の癌であれば、もちろん負担の小さな内視鏡手術を行うべきですが、ある程度まで進行してくると内視鏡手術では治療として不完全であることも残念ながら事実です。一方で他臓器に転移を来すまでに進行してしまうと今度は完全に治癒させることは非常に困難になります。そのため内視鏡手術での治癒が困難で、かつまだ転移を来していないような患者さんに対しては多少の負担を強いてでも開放手術を行って治癒を目指すべきだと考えています。次回は外科的治療以外の膀胱がん治療についてお話させて頂きましょう。
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膀胱癌の治療について (手術以外の治療法) |
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前回まで手術を中心とした外科的治療のお話しをしてきましたが、今回は手術以外の治療法についてお話ししましょう。
ある程度、早期の段階で見つかった場合には、根治的な治療として手術が望ましいことは前回お話しした通りですが、転移を来すまでに進行した膀胱癌に対しては一般的に全身化学療法が行われます。いわゆる抗がん剤治療です。従来は3剤あるいは4剤の抗がん剤を組み合わせた非常に強力な化学療法を行っていましたが、強い副作用が問題でした。最近は2剤を組み合わせたGC療法という化学療法が最も多く行われています。GC療法は従来の方法と比べて、効果はほぼ同等で副作用が少ないとされています。
残念ながら現状ではほとんどの場合で化学療法は根治的な治療にはなれません。あくまで腫瘍の進行を抑えるための治療という事になります。そのため副作用が少ない方法はそれだけ長期的に治療を続けられるという利点があります。条件が良ければ外来通院で治療を行う事も可能になります。
また手術と化学療法を組み合わせて手術の根治性を高めるという治療も、副作用が少ない化学療法であれば行いやすくなります。今後も新しい抗がん剤や副作用を抑制する薬が開発される事で、化学療法による進行がんの治療成績が向上する事が期待されます。
放射線治療も手術や化学療法に併用して行うこともあります。しかしこれらはあくまで手術や化学療法の効果増強を目的に行われるもので、膀胱癌治療では放射線治療はあくまで補助的な役割と言えると思います。
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おわりに |
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長い間、膀胱癌のお話にお付き合い頂きました。膀胱癌の診断・治療の概略について少し難しい内容も含まれていたかと思いますが、一番お伝えしたかった膀胱癌は進行性の疾患だということがお分かり頂けたでしょうか。
同じ膀胱癌であっても早期の癌、進行しているけれど局所に留まる癌、全身へ転移している癌など、様々な段階があり、段階によって治療の方法も、予後も大きく変わってきます。
最後に重ねて皆さんにご理解頂きたいのは、膀胱癌の治療には早期発見が最も重要な為、体調特に排尿状態の変化で気になることがあれば、些細なことであっても病院までご相談頂ければと思います。
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